仙台高等裁判所 昭和27年(う)822号 判決
然しながら鈴木道栄の司法警察員に対する供述調書を被告人の検察官に対する供述調書と綜合すれば、鈴木は前記市場と取引ある海産物商であるところ、手形決裁資金に窮したところからただ一日間でよいから三十万円の融通を得たい旨、被告人に申込み、被告人はこれに同情し、理事長赤津には無断であつたが、市場として無利息で三十万円を融通することに承諾した上、前記業務上保管していた前記魚市場代表者赤津馬次郎名義の小切手帳を使つて三十万円の小切手を振り出し鈴木に交付したが、鈴木は約束の通り翌日三十万円を右魚市場代表者赤津馬次郎の東邦銀行植田支店の当座預金に振り込んで返済したもので、この返済の方法に徴しても、右貸付は右魚市場の計算で行われたものであり、被告人個人の計算で行われたものでなかつたことが明らかである。従つて右は背任罪を構成することは明らかであるが、業務上横領罪を構成するものではないというべきである。また鈴木金光の検察官に対する供述調書並に被告人の前記検察官に対する供述調書、原審第二回公判調書中、証人鈴木重光の供述記載並に被告人の当公廷に於ける供述を綜合すれば、鈴木金光はその鮮魚商を営んでいた当時、前示市場書記長たる被告人と知り合い、相当墾ろになつた者であつて……(中略)代金としてそれぞれの融通方を被告人に乞い、被告人はこれに同情し、右同様理事長赤津には無断であつたが、市場として無利息でそれぞれ金二万円及び一万円を融通することを承諾した上、前同様それぞれ右金員の各小切手一通を振り出し、これを鈴木金光に交付して貸付け、同人はその後昭和二十三年十一月頃現金二万円を、昭和二十六年三月五日現金一万円をそれぞれ被告人に返済し、被告人はそれぞれその頃是が返済金を右市場の勘定に繰り入れたものであり、この貸付は右鈴木道栄に対する貸付と同様右市場の計算で行われたもので、被告人個人の計算で行われたものでなかつたものと認められる。従つてこの鈴木金光に対する貸付もまた背任罪を構成することは明らかで、業務上横領罪を構成するものではないというべきである。換言すれば、被告人が鈴木道栄及び鈴木金光に対し市場の金員を貸付けたことは、被告人が右両名の利益を図る目的で前記書記長としての任務に背いた行為をし、市場に損害を与えたものというべく、その行為は背任罪に該当するものであつて、業務上横領罪とは認め難い。